​㉖駆込み訴え［かけこみうったえ］ ​ 【解説】 実は太宰はあまり好きではない。本音の隠し方がこれ見よがしでイラッとす るのだ。飲み会で「俺の機嫌を取れ」と言わんばかりにあざとく不機嫌をま き散らす先輩のようで、生理的な嫌悪感がある。 「自分のことを書いてると 思いました」と涙目で語る熱心な太宰ファンは多感な中高生の時分にかぶれ たのだろう。私は３０近くになってからだったので騙されなかった。とはい え太宰の文章は美しい。音読したときの韻律の見事さ、弾むようなリズムの 素晴らしさ。新潮カセットブック「駈込み訴え」は故･草野大悟氏の朗読が 絶品。９０年代前半、運転しながら毎日繰り返し聴き、時には声を合わせて 朗唱した。おかげで睡魔に襲われることなく、長距離通勤ライフを全うでき たのである。ユダは愛ゆえにイエスを裏切る。愛と憎しみは表裏一体。実に 演劇的なテーマだよなあ。そう思い続けて月日は流れ、ついに念願を果たし た。 「駆込み訴え」を上演する高校演劇部の人間関係にイエスとユダ、他の 使徒たちの関係性を落とし込み、しかも各人がその役を演じる仕立て。映画 『櫻の園』 （中原俊監督／１９９０年／アルゴプロジェクト）の影響を強く 受けていることを白状しておく。畑澤聖悟 ​ ​ 【コンクール上演】 2023.09 第１５回東青・下北支部演劇合同発表会／リンクモア平安閣市民ホール 最優秀賞 2023.10 第４４回青森県高校総合文化祭演劇部門／弘前市民会館 最優秀賞 2023.12 第５６回東北地区高等学校演劇発表会／山形市民会館 最優秀賞 2024.07 第７０回全国高等学校演劇大会／不二羽島文化センター 優秀賞 ​ ​ 【その他の主な上演】 2023.12 青森演劇鑑賞協会例会／リンクモア平安閣市民ホール 2024.08 第３５回全国高等学校総合文化祭優秀校東京公演／新国立劇場 2024.10 青森中央高校創立１２０周年記念講演／リンクモア平安閣市民ホール ​ 【出版・雑誌掲載】 畑澤聖悟◎高校演劇上演台本㉖「駈込み訴え」（なべげんわーく合同会社）